「いい名ですね。この世のどんな馬より速く走れそうだ」
「…ほ、ホント…?」
「もちろんです。それに、ぼっちゃんが一生懸命考えて名付けて下さった馬ですから、きっと立派に育ちますよ!」
「………っ…」
…ぐす
「えっ、ぼ、ぼっちゃん!? すいません、お、俺なにかしちまいましたか!?」
「ち、違うよ! …ごめんなさい清八さん、ぼく…嬉しくって」
「はい?」
「他のみんなには、異界妖号の名前を言うとかっこわるいって笑われるんだ。いい名前だって言ってくれたの、清八さんが初めて」
「ぼっちゃん…」
「清八さん、ありがとう!」
「そんな、俺の言葉なんかでぼっちゃんがそうやって喜んで下さるなんて、恐縮です!」
「…あの、清八さん…」
「何でしょう?」
「…そのさ、…『ぼっちゃん』っていうの、やめない? なんか、すごく他人っぽいよ」
「はあ…?」
「ぼく、清八さんと仲良くなりたいんだ。『ぼっちゃん』だと、なんか…遠い気がする」
「じゃ、じゃあ、何てお呼びすればいいんで?」
「普通に『団蔵』って呼んでくれない?」
「い、いやそれはさすがに…他の馬借は、何てお呼びしてるんです?」
「みんなには『若だんな』って呼ばれてるよ。父ちゃんの息子だから」
「じゃあ、俺も『若だんな』ってお呼びしますね」
「…うん、分かった。あーあ、清八さんには名前で呼んで欲しかったなぁ…ぼくのこと名前で呼んでくれるの、家族だけなんだもの」
「…若だんな、その『清八さん』っての、やめにしませんか? 『清八』って呼び捨ててやって下さい」
「だ、だって、清八さんぼくより年上だし…」
「俺も若だんなと仲良くなりたいんですよ」
「…そ、そうなの? ホントに?」
「はい!」
「じゃ、じゃあ呼ぶね、…」
「お願いします」
「…せ、…清八…」
「はい、若だんな!」
「…あはは、なんかくすぐったいねー!」
「そうですか?」
「うん、みんなにも『若だんな』って呼ばれてるのに、なんか違う感じ」
「でも俺としてはしっくり来ますよ」
「そっか。ぼくもすぐに『清八』って呼べるようになるよ!」
「ありがとうございます、若だんな」
「じゃあ、改めて…」
「はい?」
「初めまして、清八。これからよろしくね!」
「───こちらこそ、若だんな。」
:::*:::*:::*:::
「ねえねえ清八ー!」
ばたばたばた
「(あー可愛いなー)はい、若だんな! どうされました?」
ぶひひーん
「おうおう、若だんなってばすっかり清八に懐いてやがんなぁ」
「あっはっは、そうだな。若ー! 俺らんとこにも来ませんかーい?」
「やだー!」
「おっ、即答でフラれたな」
「なんでですかー!」
「だって、清八ともっと仲良くなりたいんだもーん!」
「わはは、見事に切って捨てられたなァ」
「くそー、若だんなにモテてんなよ清八ー!」
「えっ、い、いやあの…」
「それに、馬借では清八が一番かっこいいんだぞー!」
「ええええちょっ、若だんな!?」
ずどどどどどど
「てめっこの清八ー!!」
「お前は若さばっか取り柄のくせに若だんなを籠絡するとは卑怯千万ー!! ゆけ瑞暴走号!!」
「いや籠絡なんてそんなぎゃああああ!!」