001:「初めまして」  ───清八×チビ団蔵+馬借たち

「団蔵、ちょっと来い!」

 …ばたばたばた

「はーい! なに、父ちゃん?」
「こないだ生まれた仔馬、命名お前に任せたよな。もう名前つけたか?」
「あ、うん! ちゃんと考えたんだよ!」
「ほほう、なんてェんだ?」
「なんかね、他の馬と違って斑が不思議な感じだったから、異なる世界の妖精って書いて…異界妖号!」
「胃ー痛くなりそうな名前だな…」
「だ、だめ…?」
「いんや、お前がつけたんだからそれで決まりだ」
「そっかぁ…他の皆に言ったら笑ってバカにするんだ。かっこわるいって」
「(確かに音だけ聞いたらかっこいいとも言えんが…)」
「でも、いきなりどうしたの?馬の名前聞くためだけに呼び出したわけじゃないでしょ?なんか異界妖号に関係あること?」
「がっはっは、さすがに聡いな! …おう清八ィ、入って来いや」
「へい、失礼します」

 がらっ

「団蔵、今日から新しく入る馬借の清八だ。今んとこうちで一番の若ェ衆ってことになるが、腕は確かだぜ」
「初めまして、清八です。これからよろしくお願いしますね、ぼっちゃん」
「あ、えっと、だ、団蔵です。せ、清八さん、よろしくね!」
「がっはっは、なーに照れてんだ! ま、年も一番近いことだし、団蔵のこと頼むぞ清八」
「はい、お任せ下さい親方」
「え、ど、どういうこと?」
「ああ、団蔵。…実はな、この清八に、あの仔馬の世話を任せようと思ってんだ」
「えぇ? あのこの?」
「そうだ。っつっても、アイツはまだ小さいだろ?」
「う、うん」
「だから、アイツが育つまで、清八の空いた時間をお前の指導に充てようかと思ってなァ。俺ァこれまでお前にゃあ、基本の基本くらいの馬術しか教えて来なかったし」
「え、それじゃあ、ちゃんとした馬術を教えてもらえるの!?」
「おう、腕のいい兄貴分にしっかり教えてもらえよ!」
「うわぁ、やった!」
「そんじゃあ団蔵、とりあえず清八を…異界妖号? のところに連れて行ってやってくれ。馬の世話しながら話でもしてこいや」
「はーい! 行こう清八さん!」

 がらっ
 ばたばたばた…

「それじゃあ親方、失礼します」
「おう、よろしく頼む」
 がらり



:::*:::*:::*:::



「清八さん、こっち、こっちの…こいつだよ!」

 ぶひひーん

「よーしよし、元気だなァ。ほう、斑なんですね───…ああ、ぼっちゃん、こいつの名前もう一度教えてくれませんか?」
「…えっと…」
「?」
「…異なる世界の妖精って書いて、…異界妖号…って言うんだけど、…あの…」
「ぼっちゃんが名付け親ですかい?」
「う、うん」

「いい名ですね。この世のどんな馬より速く走れそうだ」

「…ほ、ホント…?」
「もちろんです。それに、ぼっちゃんが一生懸命考えて名付けて下さった馬ですから、きっと立派に育ちますよ!」
「………っ…」

 …ぐす

「えっ、ぼ、ぼっちゃん!? すいません、お、俺なにかしちまいましたか!?」
「ち、違うよ! …ごめんなさい清八さん、ぼく…嬉しくって」
「はい?」
「他のみんなには、異界妖号の名前を言うとかっこわるいって笑われるんだ。いい名前だって言ってくれたの、清八さんが初めて」
「ぼっちゃん…」
「清八さん、ありがとう!」
「そんな、俺の言葉なんかでぼっちゃんがそうやって喜んで下さるなんて、恐縮です!」
「…あの、清八さん…」
「何でしょう?」
「…そのさ、…『ぼっちゃん』っていうの、やめない? なんか、すごく他人っぽいよ」
「はあ…?」
「ぼく、清八さんと仲良くなりたいんだ。『ぼっちゃん』だと、なんか…遠い気がする」
「じゃ、じゃあ、何てお呼びすればいいんで?」
「普通に『団蔵』って呼んでくれない?」
「い、いやそれはさすがに…他の馬借は、何てお呼びしてるんです?」
「みんなには『若だんな』って呼ばれてるよ。父ちゃんの息子だから」
「じゃあ、俺も『若だんな』ってお呼びしますね」
「…うん、分かった。あーあ、清八さんには名前で呼んで欲しかったなぁ…ぼくのこと名前で呼んでくれるの、家族だけなんだもの」
「…若だんな、その『清八さん』っての、やめにしませんか? 『清八』って呼び捨ててやって下さい」
「だ、だって、清八さんぼくより年上だし…」

「俺も若だんなと仲良くなりたいんですよ」

「…そ、そうなの? ホントに?」
「はい!」
「じゃ、じゃあ呼ぶね、…」
「お願いします」
「…せ、…清八…」
「はい、若だんな!」
「…あはは、なんかくすぐったいねー!」
「そうですか?」
「うん、みんなにも『若だんな』って呼ばれてるのに、なんか違う感じ」
「でも俺としてはしっくり来ますよ」
「そっか。ぼくもすぐに『清八』って呼べるようになるよ!」
「ありがとうございます、若だんな」
「じゃあ、改めて…」
「はい?」

「初めまして、清八。これからよろしくね!」
「───こちらこそ、若だんな。」



:::*:::*:::*:::



「ねえねえ清八ー!」

 ばたばたばた

「(あー可愛いなー)はい、若だんな! どうされました?」

 ぶひひーん


「おうおう、若だんなってばすっかり清八に懐いてやがんなぁ」
「あっはっは、そうだな。若ー! 俺らんとこにも来ませんかーい?」
「やだー!」
「おっ、即答でフラれたな」
「なんでですかー!」

「だって、清八ともっと仲良くなりたいんだもーん!」

「わはは、見事に切って捨てられたなァ」
「くそー、若だんなにモテてんなよ清八ー!」
「えっ、い、いやあの…」
「それに、馬借では清八が一番かっこいいんだぞー!」
「ええええちょっ、若だんな!?」

 ずどどどどどど

「てめっこの清八ー!!」
「お前は若さばっか取り柄のくせに若だんなを籠絡するとは卑怯千万ー!! ゆけ瑞暴走号!!」
「いや籠絡なんてそんなぎゃああああ!!」


初々しい感じで。二人ともお互いの第一印象は最高のようです(笑)
若だんなは加藤村のアイドルだと思います。

笛のこのお題はかなりひねくれた解釈で書いたので、こっちでは本来の意味で書いてみました(爆)