ちろるちょこ♥大作戦! ―――Missions5 side:不破大地
───ひどく、不安が俺を駆り立てた。
ファーストフード店を出たのち先ほどとは真逆の方向に足を進めつつ、先刻渋沢を追ってきた女子たちがいないかとわずかに警戒しながら、俺たちは松葉寮───武蔵森学園サッカー部員用暫定居住区───へと向かっていた。彼女らが散っていってから既に一時間は経過しているので恐らく大丈夫だとは思うが、あの勢いを考えると気をつけておくに越したこと無いだろう。
「…見たところ、今は平気そうだね」
「ああ。このぶんでは恐らくあの女子たちは全員諦めたようだ」
渋沢の言葉に頷き、改めて簡単に周囲を確認する。だが彼はそれに虚を突かれたように数度瞬きすると、苦笑を浮かべて首を振った。
「いや、違うよ」
「何?」
「俺が言っているのは、不破くんのこと」
「…どういう意味だ」
突然の認識の違いに眉を顰める。先ほどまでは、俺が『平気そう』では無かったということか?
「昼食の時、店で水野と二人で話していただろう?」
「───ああ」
「さっき、話が終わって俺たちの席に戻ってきたときに……なんだか、君の声が落ち込んでるように聞こえて」
「……!」
渋沢の言葉に、はっと記憶を手繰る。
俺は、落ち込んでいたのだろうか。水野との会話によって日頃の憂慮を再確認した故に不安を感じてはいたが、それは落ち込みと同義なのか? だが、仮にそうだとしてもそれをあからさまに───他人に分かるほどに表面に出すようなことはしていなかったはずだ。
それを、渋沢は……
「俺の勘違いならいいんだけど、ね。…少し気になっただけだから、違うのならあまり気にしないで───」
「渋沢」
苦笑して続けられた台詞を遮るように、ぴたりと足を止めて彼を呼ぶ。言葉をそして足を止め、改めて俺の顔を見た渋沢の穏やかな視線には、何一つ疚しさは無かった。
名を呼んで相手の言葉を遮っておきながらも、これを言うべきなのか今更ながら迷う。
踏み込めば、確実に、何かが───否、今までの俺たちが保ってきた関係が、崩れるだろう。
そうまでして、今、明確にしなければならないことなのか? このままこの状態を続けてはいけないのか?
だがもう、亀裂は走り始めた。
いま放っておいても、このままでは遅かれ早かれ砕け散るだろう。
ならば───
「───渋沢」
「…なんだい?」
「寮に…部屋に着いたら、───……話したいことがある」
言いにくそうに呼吸を挟みながらも、しっかりと相手の瞳を見据えて告げる。
不意に、渋沢の微笑が、すっと消えた。
視線が交錯し、互いの思考の底を読み取ろうとするかの如き微動だにしない見詰め合いが数呼吸間続く。真摯な眼差しを俺に向けた彼は、僅かに間を置いたのち静かな声音で問うた。
「…大事なこと、みたいだね」
「…ああ」
「───うん、分かった。とりあえず、行こうか」
ややぎこちなくはあったが表情に笑みを戻し、渋沢は歩みを再開する。俺もそれに続いて、再度足を踏み出した。
言ってしまった。もう、後には引けない。
だがしかし。
ひびが入ったのは、『今の俺たちの関係』だ。未来まで破滅すると決まったわけではない。
何より…───
俺は、渋沢を、信じようと思った。
出会って間もない二人ではあるが、俺たちを繋ぐものがそこまで脆いとは思わない。
確信など無い。絶対とは、言えない。一方的なものかもしれない。
けれども俺は、ただ、───信じたいと思う。
ほんのわずかな俺の異変に、いとも容易く気付いた彼を。
重い空気を振り払うように、渋沢がふと口を開く。
「っそういえば、せっかく不破くんが誘ってくれたのに結局行き先が寮になっちゃったね…悪いことしたな」
「…いや、そんなことはない」
これは本当だ。幾度か訪れたことがあるが、三上と同室とは言え渋沢の空間は穏やかな空気を纏っていて多分に落ち着くので、俺としては招かれることに吝かではない。
ついでに言えば、───ミッション通りでもあるしな。
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・ミッション4
どこかでお昼ごはん。
・ミッション5
彼の家に。
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携帯電話を取り出すもの本日は久しいが、改めてメール内容を確認。はからずもここまでは誰かの策略かと思うほど指示通りに進んでいるのだが、実を言えば問題は次───最後のミッションにある。
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〜
・ミッション6
さりげなく渡す。告白。
以上、健闘を祈る♥
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…最後の絵文字は無視するが、まあここでメールは終わっている。
そしてこの水野の指示のミッション6、…『さりげなく』? さり気なくなければいけないのか? これからの展開を考えると、さり気なくというのは結構な難題なのではないだろうか。
そして『告白』、この場合はやはり昨日の昼に屋上で言っていたように改めて愛を告白するという意味なのだろうが、もしかしたら状況によってはそれどころではないかもしれない。彼を信じていないわけではない、だが物事とは常に最悪の事態というものがあるのだ。別の意味での俺の『告白』により、これまで築いてきたこの関係全てが無に帰すということだって、…考えたくは無いが有り得る。
「メールかい?」
らしくもなく暗い思考を巡らせていた俺に、渋沢が何の気なしに声を掛ける。その声に顔を上げ、眩しそうに彼の顔を見つめた。
「───いや、少々予定を確認していただけだ」
「予定? 今日何かあるのか?」
「違う、そういうわけではない。昨日も電話で言っていたとおり、今日は一日空けてある。だからと言って別に明日何かがあるわけでもないが」
驚いて聞き返してくる渋沢に軽く首を横に振り否定の意を示す。彼は微かに首をかしげたが、それ以上何かを聞こうとはしないようだった。
そうこうしながら歩いているうちに、松葉寮へと到着したらしい。入り口をくぐり、既に顔馴染みになった人の良さそうな寮母に挨拶をして渋沢の後について寮内を歩く。
階段を踏みしめ廊下を進めば、すぐに渋沢の部屋の戸口が視界に姿を現した。
差し込まれる鍵、開かれた扉。───『告白』まで、あと少し。
「どうぞ」
部屋の主に導かれ、室内に足を踏み入れる。
願わくは、 精一杯の勇気をもって踏み出したこの一歩の下に、
───新たな大地が広がっていることを。
「年内にちろるを完結させよう」とかいう無茶っぽい目標を真冬と立てたので急いでみました。私的ちろる史上最短記録(笑) いや、かかった時間も文章の長さも。
だってまあ、書くことないし(言ってはいけないことを)それに絶対次(ミッション6)はめちゃめちゃ長くなるんで…嵐の前の静けさ(何かが違う)
ものっそい時間空いてるように見えますが、考えてみれば不破くんにとっちゃあミッション4の終わりで不安を感じてから数分しか経ってないんですよ。私たちには数ヶ月ですが(爆)
今回の話で『告白』を決意したようですが、この『告白』の内容は分からないひともいるだろうか… まあだいたいはミッション4の最後らへんの悩みをぶつけよう企画ってことなんですよ(ノリが軽いな)
次は(むしろ次も)かなりシリアスかと思われます。いやまあこの話、タイトルからしてあからさまにハッピーエンド(むしろギャグ)っぽいけど(笑)
さてたつぼん編感想ですが、考えてみればヤツは何故チロルチョコを選択したんだろう。ていうか一個だし。不破くんは理由が分からないので全種類買ったんだよな、分けてもらえば良かったのにね(笑)
あとちょいと下の話が多いですなー。私ではとても書けないタイプだ(笑)
シゲ準備いいし! 公園のゴミ箱にもらったチョコ全部捨てときながら自分は板チョコ準備してるのかよ(笑)
ちなみにキャプテンは用意してません多分(オイ)いやむしろさせません、ていうかむしろ私があげたい(お黙り)
ナンパの日に生まれたシゲさんですが、こういうテクを使用するあたり憎いですね!
さあとりあえずスピード上げて行こーう。
Date: 2005/11/07 秋野