ちろるちょこ♥大作戦! ―――Missions4 side:水野竜也
今日の風はとても気持ちいい。公園でゆっくりと休んでいると、じきにくらくらした頭痛はだんだんと消えていった。
「シゲ、もう行こう」
「ん、大丈夫なんか?」
こくん、と頷き手を繋いだまま立ち上がる。シゲも立ち上ると、二人して公園の出口を目指した。
「大丈夫かな…」
「何が?」
「あの女の子達。また来たら困るな、って……」
俺は心の底から、追いかけてきたら周りも迷惑だと思っていたのだが、シゲはそれをからかうようににやっと笑い言う。
「デート邪魔されたぁないもんなー」
「…!!!!」
何でこいつはこうからかうのが好きなんだろう。確かに、当たってはいるから、結構どきっとする。
真っ赤になった俺の頭をぐりぐりと「可愛い可愛い」と言いながら撫で、満足そうに笑う。
俺はその腕を遮るが、何度も頭を撫でてくるので何度も遮る。シゲはにっこにこで、構ってもらえるのが嬉しいのか、俺の反応が面白いのかケケケ、と声を上げて笑っている。
公園を丁度出たところで、お腹の鳴る音がする。二人の動作がぴたりと止まった。
「シゲ…腹へった?」
「あ、聞こえた?」
そりゃあもう、素敵なお腹の虫の泣き声が。すごい音だった、と思いながらこくんと頷く。シゲが苦笑いをしながら、手を繋いでない方の手で髪を掻き上げる。俺の心臓は一瞬ものすごく心拍数が跳ね上がったと思う。シゲは多分無意識の行動だろうけど、俺にはとんでもなくかっこよく感じる。シゲと二人で居るときは、楽しいし嬉しいけれど、心臓に悪い。
だからと言って、一人だと寂しいんだけど。
「いやなぁ、実は朝遅刻しそーなって朝飯食うてへんねん」
「じゃあどっかで食べよ」
確かに俺も少し腹が減っていたところだ。携帯で時間を確かめてみると、お昼には少し早いがいいだろう。
「せやね、少し早いけど、混んでまうよりええやろ。どこいい?」
「どこでも…、あ、近くにマックなかったっけ?」
シゲの手を引っ張り街の方へと歩いてゆく。この時はマックを探す事で頭が占められていたので、周りの女の視線には気づかなかった。
ていうか、シゲのあんなの(髪掻き上げ)を見せられて普通になれるわけない!
手の体温がどんどん上昇していないか、俺の振る舞いは普通にできているか。それが気になって気になって仕方が無いのに。
きっと、200点万点もらえるほど俺の行動は完璧だった。(と、思いたい)
しばらく歩くと、目の前にドナルドおじさんが見えた。街中で赤と黄色の看板と、入り口斜め前のベンチに座る(なんか偉そうに後ろに腕を凭れ掛からせて、足を組んでいる)ドナルドおじさんは結構目立つ。二階建てで、席数も多く広いマクドナルドだ。
店内は昼前と言う所為か、ちらほらと席は空いていた。二人で、マックに入り、取り合えず窓際の席に荷物を降ろし、椅子に腰を下ろす。この時点で、俺たちには「女が追っかけてくるかも」と言う危機感はすっかり頭から葬り去られている。
「あ、今ハッピーセットでスヌーピーやっとるんやなー。前はハ×太郎やってんな」
「(スヌーピー…!)し、しらねぇよ…」
「俺なんにしよかな……、…?」
メニューをみていたシゲがいきなり立ち上がり、しきりに外を気にする。
「シゲ?」
俺も、椅子から降りて、外を見る。なんだかきゃー……と遠くから黄色い声。
まさか、とびくっとすると、シゲがぎゅっと手を握ってくれた。そんな心遣いに胸打たれ感動したのも束の間。
「あっ!?」
「あ? …あ!?」
ばっと、今し方繋がれたばかりの手が離され、シゲはばんばんと硝子の壁を叩き始めた。初めは本当にぶちっと切れるかとも思ったが、自分の目でそれが確かめられればまあしょうがない、と思う納得よりも、シゲと同じ事をしていた。
所詮似たもの同士?
いや、そんなわけがない!
「旦那アァァっ!!」
「不破ぁっ!!」
だんだんと硝子を叩いたお陰で、二人は気付いてくれた様だ。こんなときに、店にいる他の客の視線なんか気にしてはいられない。後ろでは、店員が出てきて「お客様!?」と、あたふたしている。そりゃあ、吃驚もするだろう。
不破が渋沢に引っ張られるようにして、どうにか店内に滑り込んだ。その二人に、「こっちこっち」と背中を指差しながら、後ろに隠す。やんわりと笑顔を浮かべた店員が事情を察してくれたのか、入り口を隠してくれる。先程「お客様!?」と慌てていた店員もそこに加わっていた。
さすが、スマイル0円…。素晴らしい笑顔だぜ。
不破につられて、外を見ると手にリボンや綺麗な包装紙で装飾された箱を持った女の子たちがうろうろきょろきょろとしていた。どうやら、その女の子達は勘が鈍い様でこっちに入り込んだと言うことは知られていない。知られていても大変だけど。
大きな声をだし、むんむんと苛々したり、戸惑っているのがこちらからでもよく解る。
「ああもう、せっかく藤代くんから聞いて、やっと見つけたのにぃ…」
「え、あたし三上先輩から聞いたよ?」
「私は笠井くん」
「私根岸先輩からー!」
「あたしは辰巳くんからだよ」
「中西先輩に教えてもらったけど」
各々に情報源をばらしつつも、「ほんとどこいったのかしらー」と周りを見ながら来た道を戻り初めた。こちらに入ってくる事は無いので、ほっと胸を撫で下ろす。
後ろでは、恨みがこもったような声で、口元をひくひくさせながら「…あいつら……」と、渋沢さんが呟く。ご愁傷様です。
シゲは外を窺っていたが、問題無しと解ればくるっと、渋沢の方に振り向き、にやりと意地悪そうに笑う。
「モテる男は辛いのー」
「(ジジくさ……)」
心の中で小さく呟く。
しかし、不破はこんな事を言われて黙っている子ではないので、
「過去の統計によれば毎年この日は佐藤と水野の周囲においても似たような現象が起こっていたが、お前たちも辛かったのか?」
と、容赦なく疑問をぶつけてくる。
なぜ俺を巻き込むんだ、と思いつつも何故か体温が上昇する。シゲはかわしが巧いから笑いながら答えるけれど、俺にはそうもいかない。
「あ、いや、えっと……」
「黙秘しマース」
何でお前そんなにかわしが巧いんだよ。俺にもその技術をよこせ、と心の中で悪態つきつつ、どうにか冷静さを保とうと努力をする。
渋沢さんがやり取りを見つつ、苦笑し立ち上がると、俺たちにお礼を言う。
「ともかく助かったよ、佐藤、水野」
別に御礼を言われるような事はして無いんだけど。だって、お互い様だし…。
「なーんの、お互い様やん。…せや、どうせやし一緒にメシ食わん? 俺らも今から注文やし」
……シゲ、お前、エスパーか?
「───そうだね、そろそろお昼にしても…不破くんはここでいい?」
「構わん」
「なら、お言葉に甘えてご一緒させてもらうよ」
「ほな、注文いこか」
四人で、移動しレジにゆく。女の人が、メニューをこちらに向けながら、「何になさいますか?」とにっこり0円スマイルを向ける。俺も、いつでもできるその笑顔を習いたいものだ。
「ええと、不破くんは何を頼む?」
先程が緊迫していたから、やっと落ち着けて安心したのだろう。軽く微笑を浮かべながら、不破に話しかける。
「こういうところにはあまり来ないのでな…よく分からん、お前と同じものでいい」
「そっか、じゃあ…、すみません、フィレオフィッシュセット二つ」
はい、と女の人の声が聞こえる。
「お飲み物は何に致しますか?」
「爽健美茶でお願いします。不破君は何がいい?」
「同じもので構わん」
やっぱり渋沢さん優しいな、と、少し羨ましくなる。シゲも、優しい事は優しいんだけど…、渋沢さんとは別な素直な優しさじゃないんだよな…。
なんか、不破が羨ましい。明らかに大切にされてるし…。渋沢さんは、シゲみたく「盛ったサル」じゃないし…。
「俺はビッグマックセットな。タツボンは何頼むん?」
シゲの声ではっと、意識を戻す。意識が変なところでぐるぐるしていた。危ない危ない。
俺の注文する物は決まっている。けど、これを中学二年で口に出すのは結構恥ずかしく、多少の勇気がいる。他のセットを頼むにしても、絶対腹に入らないし。
勇気を持ち、軽く顔をそらし言う。
「ハ……ハッピーセット…」
「…ハッピーセットぉ? なーんやタツボン、可愛ええなぁ」
「うるさい!普通のだと食べ切れないんだよ…」
案の定笑われた…!チッ、屈辱…!
恥ずかしくてほっぺが熱くなる。畜生、今日赤くなりすぎだぞ水野竜也!! けれど、これは如何し様もない。対処法があれば教えてほしいぐらいだ。あまりの恥ずかしさに語尾が小さくなる。
その俺の反応にまた嬉しそうにニヤニヤしながら、シゲは止まらない。
「なんやねんサッカー少年、食わんと育たんで? 胸とかも」
ひぃっ…!!!(ぼんっ)
こいつ、公共の場で…!!!
男の俺に、胸、とか胸とか胸とか……。あーなんか、頭で爆発音が…。
思わず後ろに後ずさりしそうになるが、「不審」の二文字が頭にちらついて何とか堪え、言い返しの言葉を考える。
「そんなの元から無い!っ大体、お前が食べすぎなんだよ!」
どうしよう、顔が熱い。一気に血が上って頭ががんがんする。
死ぬ…。お父さんお母さんごめんなさい…。
「中学生男子やったらこれで普通や! ちゅうか旦那、アンタもタッパあるくせに食わんなぁ…体重なんぼなん?」
シゲはそれ以上突っ込まず、標的を変えて渋沢さんに振り向く。
ナイス標的。(ごめんなさい渋沢さん…。)
急に会話を振られた渋沢さんは、やや驚きつつも、きちんと質問に答える。
「え? っと、……65kg、だが……」
「65ぉ!? え、身長は?」
「……183cmだ」
よく、自分の身長覚えてるな…、と思いつつ勝手にシゲと俺の飲み物を注文する。多分、コーラでいいだろ。好きだし。
不破は、じっと二人の会話を監視(?)している。シゲは身長と体重を聞いて、驚いた顔をしたが、俺はその後のシゲの言葉に驚いた。
「はぁ!? なんやそれ、標準より5kgも少ないやん! そんなんでGK大丈夫なんか?」
何で標準体重が頭に入ってるんだよ…。一体どういう時に、標準体重(しかも標準体重は全国の標準だから毎年微妙に変わる。)を記憶しなきゃいけなかったのか。俺はそこを追及したい、と思ったが、不破がすらりと口を開く。
「他人をどうこう言うのはいいが、183cm65kgの渋沢に対して佐藤、お前は171cm58kgだったな。現在は標準体重よりも2kg少ないが、渋沢と違いファーストフード等での間食が多いお前はこの先フォワードとして相応しい体型であり続けられるかどうかは定かではない」
なんか、俺の言いたい事とは違うけど、シゲをこっちが責めれるなんて何となく嬉しく悪乗りしてしまう。
「そうだそうだー」
「要は、『太るぞ』と。下手をすれば水野の愛すらも離れていくかもしれんぞ」
「腹が出たシゲなんて俺見たくない……」
なんて巧い事を言うんだ不破。今のシゲから、腹の出たシゲを想像するとうっと、言葉に詰まる。
俺と不破は結構いいコンビかもしれない。
演技ぶって口元に手を当て、うっと涙ぐむ仕草を見せたら、とうとう短気なシゲが軽く切れ、声を荒げた。
「うっるさいわ! やったら食うた分だけ動けばええんや!」
「お客様…?」
「ま、まあまあ…」
ここで、店員と渋沢さんがこの場を抑えてくれた。この後、すぐに注文したものができて、トレーに乗せられた物を受け取り、一応用心の為二階の隅の席へ移動した。
二人づつ向かい合って座る。シゲが片手でストローのビニールを千切りながら言う。
「…さてと。旦那たちもバレンタインデートなん?」
この一言で、一瞬俺と渋沢さんが固まる。
「(「も」? 「も」って言った? 「も」とか言った!?)」
そう、やつは「も」と言ったのだ。「旦那たち も 」と。これは、俺たちもバレンタインデートをしている事になる。確かにそうではあるし、間違いではないのだけれど、恥ずかしい…。
「え、いや、その……」
渋沢さんも、俺と同じく驚きつつも、どうにか返事をしようと考えているのか口篭る。比べて不破は、「なんだそんなことか」とでも言いたそうななんとも無い顔で、
「肯定だ」
「っ不破くん!?」
言ってのけるので、渋沢さんは真っ赤になって今にも頭から湯気が出そうだった。
シゲはそんな反応がつまらなかったのか、眉間にしわを寄せ、小さく言ってのける。
「…なんや、旦那のが照れ屋かいな。あー初々しー。ケッ」
自分で聞いておきながら…。
でも俺はいいと思うけどな…、別に女役だけが照れなくたって。俺だって、どうにかこの赤面症を治したいし。いいな…、他人のカップルを見てると新鮮な発見が沢山見つかって、同じぐらい羨ましくなって無い物強請り。
いつか俺も、シゲを照れさせてやりたい…。密かに心に誓う。
「───そういえば、バレンタインとは相手に体術をかけるものなのか?」
片手に紙コップを持ちながら、不破が口を開く。
「…え?」
体術と言われて、一瞬別の方が浮かびつつもかき消す。
危ない…、シゲの回路になってきてる。
「先ほど渋沢と俺を追ってきた女子に、所謂ラリアットを掛けられた。偶然の賜物かもしれんが───」
「お前もされたのか!?」
なんか、ラリアット集団みたいなものでも居るのだろうか?居たら居たで、怖いし迷惑な連中だ。
もしかしたら、「バレンタインにラリアットを華麗に決める会」とかが計画されてたり…。いや、まさか。偶然だろう。…ていうか、偶 然 だ と 思 い た い 。
「『も』、ということは、お前もされたのだな。バレンタインにこのように攻撃的な習慣があったとは…」
「いや、そんな習慣ないけど。でもまあ、俺も受けたことは確かだ。……それはもう、素晴らしいラリアットを…」
軽く首を振り、真面目に納得しかける不破に苦笑しながら返す。そんな習慣があったら、男は体が持たないと思いつつ、ラリアット時を思い出すと思わず虚空を見て遠い目をしてしまう。
あのラリアットの素晴らしかったこと…。脳天に直撃した振動は、マゾではない俺にとってはただの苦痛でしかない。あの子は女子プロを普通に目指せると思うけど、どうなんだろう。とにかくインパクトはありまくりだ。顔は覚えてないけど。
「そうか。…しかし、佐藤が救出してくれたのだろう?」
にや、と意地悪い笑みを浮かべると伺うようにこちらを見る。
「なっ…!! …そう、だけど……そういうお前だって、渋沢んさんに助けられたんだろ?」
隠すことまでもなく、図星だ。しかし、不破相手ならやられてばっかりいる俺ではない。
「……それは、お前の憶測に任せよう」
同じ質問を返すと、不破はほんわりと頬を染め視線を逸らした。
その行動にここに居る三人は思わず同じ事が頭に過ぎる。
「(あ、照れた)」
「(不破が照れとる…めずらし)」
「(不破くん、赤くなってる…)」
ふと、渋沢さんを見ると、軽く赤くなっている。そこで、不安が過ぎる。
渋沢さんは以外にもサッカー以外はのほんとしているが、サッカー時の感の鋭さはきっと、関係なくある、と思う。だったら、もしかしたら、この「ちろるちょこ大作戦」の計画も、実はばれてたり、してるんじゃないだろうか。
もしくは、こんなにもラブラブな彼等だ。渋沢さんが、不破の異変に気付いて「不破どうしたの?」とあのにっこり笑顔で問われて、思わずきゅんとした不破がぽろっと言っちゃったりしてしまうんじゃないだろうか。
不安はどんどん膨らむばかりだ。困った。バレていては、俺の人格が疑われるかもしれない。だって、メールを打ってたときは夜で、何となくテンションがあがってたときだったし…。
一大事だ!
勢いでがたっと椅子を立ち上がる。
「すいません渋沢さん、不破借ります」
「え? あぁ、どうぞ」
にこやかに、渋沢さんは笑い許してくれた。よかった。
「ちょっと…」
「?」
許可も下りたので、手招きをして不破を呼び今座っている席とは、少しはなれたところに移動し、背を向けるようにして、二人隣同士で座る。
「おい、不破…もしかして、渋沢さんに計画のことバレてたり……」
別にこれだけ離れているのだから、大声を出さない限り聞こえはしないとは思うが、一応こそこそと口の近くに手をたて耳打ちするかのように、寄り添い話しかける。
「案ずるな。黙秘してある。気付いているかどうかは定かではないが」
「そ、そうか……」
その言葉に心底安心する。けれど俺は、「案ずるな。黙秘してある」のところだけを聞いて、「気付いているかどうかは定かではないが」のところは殆ど右から左に流れていた。安心するのが先に来てしまったのだから、そこまで聞いていなかったのだ。
「そっちは順調か?」
「ああ、恐らくな。計画第二段階で少々手間取ったが」
「二段階?そんな難しかったか?」
「ああ。特に、『元気に!』で難航した」
「え?なんで?」
何がなんだかわからず頭には?が飛び交う。元気に、が難しいなんて。やっぱり不破ってよく解らない…と心の中で呟く。
「『自然』と『元気に!』を両立させるためにはどうしたらいいのかを考えてな。───それはともかく、質問したいことがあるのだが」
「そう…。質問?」
多分これをさらに深く聞いても、俺には理解できないと判断し、会話を先に進める。不破が質問なんて珍しいことだ。
「ああ。……お前たちは、これからラブホテルへ行くのか?」
エ?
一瞬俺の周りの景色がスローどころか、硬直した。
ラ、ッラララ、ブホテルだと?らぶほてる、ら……。
…らぶほてる。
いや、落ち着け水野竜也。聞間違いってのもあるかもしれない。聞き間違いであって欲しいけど、どうだ。いやでも、聞間違い?ラブホテル聞き間違い?
どうしよう…、混乱する。
落ち着け、落ち着くんだ俺!
「……ごめん、俺耳悪いのかな。もう一回言って?」
「そうか、早めに耳鼻科を受診するといい。お前たちは、これからラブホテルへ行く予定があるのか?」
聞き間違いじゃないのかよ…。
「…なんで、なんで!ちょ、なんで…!!」
「今日のお前は『なんで』が多いな。なんで、というか…ラブホテルとは、バレンタインに行くものではないのか?」
内容を知っているだけに顔が熱くなる。どうしてそんな事を聞かれるのか。一応ミッション通りだと、その予定はないけどシゲが行く気だったら俺は強気に断れないし。
一応未成年で、中学生だけど……。
「い、行くかもしれないけど行かない!」
こんな事落ち着いて処理できる人間じゃない。だって俺は、お年頃。気が動転して思わず声が大きくなる。その声は、離れていたシゲ達のもとまで聞こえた。離れた意味がない…。
「タツボン? 行くて、どこにや?」
「えっ…!!…ら、…じゃなくって、…もう、会話はいってくんなよ!」
「やったらそないにデカい声出すなや……」
一瞬答えそうになった。危ない。ラブホなんていったら、シゲのからかいの種になること間違い無しだ!この、からかい大魔王め…。
振り向いた、体を元に戻し、落ち着くために一回深呼吸をした。
おちつけ、冷静に対処するんだ。
迷える子猫ちゃんのために!
「───行かないのか? 何故だ?」
「人それぞれだし……、ていうか、ラブホなんて俺達には早いし…」
「そうか、では行かない者もいるということか。…情報提供感謝する」
そう、俺たちには早い。それでいいじゃないか!行っても通るはずはない。いや、顔は見えないって言うし通るのか?
でも、男同士だと断られるのが多いんだよな…。俺たちは、何時か大人になったら、然るべき日(ラブホテルに行く日)が来たら、通れるのか?
いや、今そんな事を想像するよりも気になる事がある。この情報をどこで不破が手に入れたかと言うこと。
性知識には疎そうだけど、元々知ってたのか?
「ていうか、なんでそんな事聞くんだよ。」
「先ほどすれ違ったカップルが、バレンタインだからラブホテルに行くと言っていたのでな。今日ならではの場所で、尚且つ行かねばならんのならこれから向かおうと思ったのだが…」
セフレか?
何かにつけて、やたらセックスしたがる…。シゲみたいだな。
「行くなよ!それ、カップルじゃなくて、セフレだよきっと。あーもう、迷惑な奴等め…」
最後のあたりはぼそりと小さく呟く。
それにしても、不破の知識が危うい。何かを根本的に教えなきゃいけないような気がするけど、何を教えていいのか解らない。
えーと……、何を教えればいいんだろう。
「せ…ふれ、とはなんだ? それに、しっかりと『彼氏』と言っていたが」
不覚だった……。
不破の前で、わからんような言葉は使うべきじゃないのか。そうだ、そうだよ!
いや、ていうか、セフレってなに、とか聞かれちゃってるし、えー…。
「シゲにでも聞けよ。セフレでも、彼氏彼女ってゆってるのもあるんだよ。多分」
困ったときのシゲ頼み。こういうのはシゲに押し付けちゃえ。だって俺が説明できるはずもない。だって、恥ずかしいし。
「憶測だな。だがしかし了解した、後で佐藤に聞いてみよう」
「御願いだから、人前では訊くなよ。」
「他人の前でしてはいかん質問なのだな、分かった」
「あと、それと。ミッションは渋沢さんには絶対ばらすなよ」
こそこそ、と釘をさす。
本当、ここは渋沢さんにも、もちろんシゲにもばれて欲しくないことだ。ばれたらきっと、まともに顔向けなんてできなくなる。
俺もぽろっと言わないように改めて気をつけよう…。
「ああ。佐藤も知らんのだな。しかし、何故知られてはいかんのだ?」
「え……、ほら、あの……能ある鷹は爪を隠すってゆうだろ。そんな感じ…」
苦しい言い訳だと思いながらそろそろ、と視線を逸らす。
「諺の使い方が間違っているが」
「気にすんなって、とにかくばれたら駄目だからな」
「ああ、了解した」
俺たちの会議は終わった。
釘を刺すだけの予定が、ラブホやらなんやらで俺の脳細胞は活発に動いた気がする。何時か俺、ポーカーフェイスできるようになるかな…。
事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!は、某映画名言。しみじみ、その通りだと思う。
今後大丈夫かな…。不安を抱えつつ席を立った。
たつぼんはアホです。そして天然ではないけれど、天然に近いアホです。もしくはちょっとズレてます。色々突っ込みたいところがあるのはあるんですが、キリがないので、美塚に突っ込んでもらうことにします(待て)
不破君サイド感想。
たつぼんにはものいっそ迷惑だったカップル。これはセフレなの?(笑)
渋不破サイドはとっても不破君が積極的で羨ましい限りです。私にはそういうもんはかけん…(乙女専用/ぇ)チューとかしちゃってるし、チューとか!(何だよ)不破君が可愛いと思ってしまった私はもう…(何)
バカップルじゃないよ、純粋カップルだよ。
素敵な萌えをありがとう。
Date: 2005/06/05 真冬